関東ではなじみの薄い夏の高級食材・鱧(はも)。そんな鱧の天ぷらが、なんと京都駅の立ち食い蕎麦屋で、まるでちくわ天や春菊天のごとく、当たり前のように提供されていた。「鱧って料亭とかでしか食べられないんじゃないの?」 京都、恐るべし……、関東の庶民には衝撃でしかなかった。

出張の合間に京都鉄道博物館に寄り道

 前回から続き、鳥取駅から特急「スーパーはくと」に乗って京都駅に向かった翌日。昼過ぎに用事を済ませると、次の目的地に向かう新幹線の時間まで、まだだいぶ間があった。かといって遠出をして寺巡りするほどの時間はない。京都駅近くでいいところはないかとスマホを検索して見つけたのが、京都鉄道博物館だった。

 埼玉県の大宮駅近くにあるのは「鉄道博物館」だが、こちらは名称に地名の「京都」がついている。その理由は、大宮のほうが商標登録を含めて先にオープンしていたからだそう。京都が“埼玉ごとき”に負けているようで、なんだか妙におかしい。

京都鉄道博物館の特急列車の展示
昔懐かしい特急列車の車体たち京都鉄道博物館の特急列車の展示

 鉄道車両には詳しくないので、2つの鉄道博物館の間で展示されている車両にどう違いがあるのかはよく分からなかったが、なんといっても京都のほうは扇形庫(扇形の格納庫)があり、そこで数多くの蒸気機関車が展示されている。これは壮観だった。

京都鉄道博物館の蒸気機関車C551
C55形蒸気機関車、愛称は「シゴゴ」。62両が製造されたという

 とはいっても、ここで一番心を動かされたのは蒸気機関車ではなく、国鉄時代の貨物列車の最後尾につけられていた「車掌車。年がバレるが、子供の頃、目の前を通り過ぎていった貨物列車の後ろ姿を目で追いかけながら、「あの中で何してるんだろう?」と想像した(制服姿の車掌さんが机に向かって事務仕事をしている姿を頭に浮べていた)、あの憧れの車両だ。

京都鉄道博物館の車掌車
内部の様子を見てみたかったが、残念ながら中には入れず

まさかこんな高級食材が駅そばにあるとは

 博物館からバスで京都駅に戻ると、次の目的地・新山口駅までは新幹線で約2時間。小腹を満たそうと、駅構内の立ち食い蕎麦屋に立ち寄った。

 券売機の前に立つなり目に飛び込んできたのが、メニューに並んだひときわ異彩を放つ一品──「鱧の天ぷら梅肉添え冷やし蕎麦」。関東民にはビックリの食べ物である。

鱧の天ぷら梅肉添え冷やし蕎麦

 関東人にしてみたら、鱧といえば「湯引き」や「土瓶蒸し」といった高級料亭の夏料理のイメージしかない。それがまさか、駅そばのメニューに? しかも、たったの600円(当時)。迷わず注文した。

 注文して出てきた蕎麦の上には、鱧の天ぷらが堂々と鎮座していた。やや揚げすぎにも見えたが、駅そばに多くを求めてはいけない。

 それでも、どれほど繊細で上品な味なのか……と、身構えつつもおっかなびっくりにひと口。「さすが京都の夏の味覚。この上品な味わいはやはり普通の魚と違う!」と言いたいところだったが、「白身魚の天ぷらとあまり変わらないかも…」というのが正直な感想だった。どうやら関東の田舎者には、鱧の本当の味わいを理解するのはまだ早かったようだ。

今はもうない? 幻の駅そばメニュー

 数年後、京都駅を再訪した際、あの蕎麦をもう一度味わいたいと探したが、どの店か思い出せず、ネット検索でもヒットせず……。「鱧の天ぷら蕎麦」を出す駅そば店は、どうやらもう存在しないようだった。

 関東ではまず食べられない鱧の駅そば──。それだけに、一期一会のグルメ体験となったのが今も心に残っている。

京都駅前のバス停が並ぶ歩道に吹き出すミスト
盆地の京都はひたすら暑い。駅前のバス停が並ぶ歩道に吹き出すミストも焼け石に水

関連リンク

吃貨美味探訪記 No.235(出張地元メシ編その27)「人気の駅弁が売り切れていたため買ったのは──鳥取県鳥取市・かに寿司駅弁」

京都鉄道博物館

鉄道博物館

ウィキペディア「国鉄C55形蒸気機関車」

ウィキペディア「車掌車」

京都・本家尾張屋「はも天せいろ」

吃貨美味探訪記一覧(No.201〜)へ戻る

佐久間賢三

今年も旧正月をマレーシアのイポーで過ごす。来年も行くつもりでいたが、調べたら来年の旧正月は2月17日。月の半ばは出張が入ることが多く、無理やりにでも行こうかどうか、今から悩んでいるところ。