北角(North Point)の茶餐廳で地元のおばちゃんと相席というなかなかシュールなアフタヌーンティーを楽しんだあと、再び2階建てトラムに揺られて、香港の繁華街のひとつ、銅鑼灣(Causeway Bay)へ。ここは半島側の尖沙咀(Tsim Sha Tsui)と並んで、深圳時代にもっとも通い詰めた場所である。

懐かしの書店巡りへ

 そもそも銅鑼灣に何度も足を運んでいたのには、ちゃんとした理由がある。買い物だ。深圳には日本のジャスコ(現・イオン)が吉之島(ジー ヂー ダオ 現在はイオンへの名称変更に合わせて永旺:ヨン ワン)という名称で進出していて、日本の食品を買うことはできたが、品揃えとなると香港には遠く及ばない。特にカレールウ。ハウス食品のジャワカレーが深圳では中辛までしか売っておらず、辛口やスパイシーブレンドは香港でしか買えなかったのだ。

 そしてもうひとつのお目当ては、本屋。中国では”諸事情”により日本の本を自由に買うのが難しいが、香港には日本の書店が進出していて、売れ筋の本や雑誌ならちゃんと手に入る。前回触れた尖沙咀にある日本の新刊本と古本が一か所で買える書店に加え、銅鑼灣にはそごう(崇光百貨。2001年より香港資本)の11階に旭屋書店があった。

 ただし香港では運輸コストがかさむ分、値段は日本の1.5〜2倍。なので新刊や雑誌を買うことはほとんどなかったが、銅鑼灣を訪れるたびに「日本文化の香りを嗅ぎに」とふらりと立ち寄っていた。

 さて前置きはこのくらいにして。銅鑼灣に着くと、まずはその懐かしい感覚を取り戻すべく、そごうに入ってエスカレーターで11階へ上がっていった。ところがどっこい、ワンフロアのほとんどを占めていたはずの書店が大幅に縮小されているではないか。しかも店名まで変わっている。

「崇文堂書店」という店名から推察するに、そごう(崇光百貨)の直営店かも

 帰ってからネットで調べると、2021年に旭屋書店は撤退し、現在の書店に運営が移管されたとのこと。棚のレイアウトも様変わりしていて、せっかく来たのに当時の面影すら拝めず、あっさりとエスカレーターで引き返すはめになった。

“一期一会”を求めて通った古書店へ

 となると、もう一つのお目当ても怪しくなってくる。そこは日本の古本を専門に扱う古書店「写楽堂」。香港・深圳に住んでいた日本人なら、おそらく誰もが一度はお世話になっているはずの店だ。そごうから軒尼詩道(Hennessy Rd.)を渡って路地に入り、衣料品の屋台の裏をひょいと進んだところにあるビルに構えている。

 入口の雰囲気を見て「たしかこのビルだった」と中に入ってみると──あった! 近年の香港でのテナント料高騰にもへこたれず、まだしっかりと暖簾を守っていた。レジに目をやると、見覚えのある店主の顔。

店内には、香港に住んだ代々の日本人たちが読み継いできた古本がギッシリと並んでいる

 この店には銅鑼灣に来るたびに足を運んで、面白そうな本を見つけたら迷わず買っていた。古本は新刊より安いうえに、一期一会が基本。「今日はやめておこう」と棚に戻すと、次に来たときにはもう消えている──そんな経験を何度したことか。

 今回は生存確認だけのつもりで立ち寄ったが、馴染みの店が元気にやっているのを確かめられただけで十分だった。胸いっぱいの懐かしさと嬉しさを土産に、ビルをあとにした。

 というわけで、懐かしの書店巡りはこれにておしまい。銅鑼灣からMTRに乗り、油麻地(Yau Ma Tei)のホテルに戻った。

ホテルの客室は、ベッド脇と壁の間はスーツケースがギリギリ開ける程度のスペースしかないほど狭かった

ナイトマーケットで青菜炒めをツマミに喉を潤す

 ホテルのフロントに預けておいたスーツケースを受け取って部屋で荷を解き、シャワーで汗を流すと、すっかり日の暮れた街へ再び繰り出す。目指すは歩いて5分ほどの廟街(Temple St.)。夕方以降になると通り沿いに屋台がずらりと並ぶナイトマーケットだ。かつては男性向けの衣料品が主に売られていたことから「男人街」とも呼ばれるが、これは日本だけの呼び方らしい。

廟街夜市は、以前は衣料品などの屋台ばかりだったが、今では観光客向けに食べ物も

 男一人で屋台を冷やかしてもいまひとつ盛り上がらない。食べ物の屋台もあるにはあったが、今日は朝から歩き通しで、食べ歩きできるほどの気力は残っていない。ここはビールとガッツリした料理で締めたい。というわけで、屋外テーブル席のある屋台村のような一角に腰を落ち着けた。

吳松街臨時熟食小販市場では、香港の路上にある飲食屋台・大排檔(ダーイ パーイ ドーン)の雰囲気を楽しめる

 ここは吳松街臨時熟食小販市場(Woosung Street Temporary Cooked Food Hawker Bazaar)。常設の建物なのに名前に「臨時」と入っているのは謎のままだが、まあ細かいことは気にしない。円形の建物の中に料理屋台がいくつも並び、周囲にテーブルが点在するオープンエアな作りが心地よい。

 注文したのは、ビタミン補給を兼ねた蒜蓉炒時菜とビール。蒜蓉炒時菜(シュン ヨン チャーウ シー チョイ)は刻みニンニクで旬の青菜をさっと炒めた料理で、空心菜/通菜(ホン サム チョイ/トン チョイ)、生菜(サーン チョイ=レタス)、菜心(チョイサム=白菜の変種)、芥藍(ガーイ ラーム)といった野菜がよく使われる。生野菜をあまり食べない中華圏における、いわばサラダ代わりのような存在だ。

蒜蓉炒時菜は、青菜を強火でさっと炒めた広東料理の定番

 この日の青菜は芥藍。葉にはほのかな苦みがあり、茎はシャキシャキとした歯応えで、噛むうちにじわっと甘みが広がる。日本ではなじみが薄いが、広東料理の炒め物では定番の食材だ。茎から葉の先まで丸ごと使われることが多く、茎の端からモグモグとかぶりついていく。

 ビールは香港でお馴染みの藍妹啤酒(Blue Girl Beer)、通称・藍妹(ラーム ムイ)。おそらく飲むのは今回が初めてで、飲んでみるとコクがあって独特の風味がある。香港の油っぽい料理と合わせると妙にはまるが、日本で単独で飲んでもこの美味さは再現できない気がする、そんなビールだ。

ブルーガールはもともとドイツのビールだったのが、香港企業に買収され、韓国で製造され香港で販売されているという、不思議なビールなのだとか

 もっと頼んでガッツリやりたいところだったが、なにせ一人。中華圏の料理は基本が大皿なので、2皿でも食べきれるか怪しい。実際、青菜炒めの量もなかなかのもので、ビール一本でなんとか完食。しめて95HKD(2000円弱)。香港でも円安の”現実”を、しみじみと突きつけられた。

 この日は本当にあちこち歩き回った。総歩数は実に2万8500歩。翌日は、同じタイミングで香港入りしていた高校時代の同級生親子と合流し、再び足が棒になるまで香港の街を歩き倒すことになる。

おまけカット:香港では路上喫煙の規制が強化されていて、紙巻タバコは灰皿付きのゴミ箱付近等の指定エリアでのみ可能

関連リンク

北角(Wikipedia)

Hong Kong Tramways – Ding Ding(公式サイト 英語)

銅鑼灣(「コーズウェイベイ:業界関係者のお気に入り」香港政府観光局)

尖沙咀(「尖沙咀で必ず訪れたいショッピングモール」香港政府観光局)

イオン株式会社(公式サイト)

広東永旺天河城商業有限公司(公式サイト 中国語)

ジャワカレー(ハウス公式サイト)

香港崇光百貨(公式サイト 英語)

旭屋書店(公式サイト)

写楽堂(公式X)

軒尼詩道(Wikipedia)

MTR(公式サイト 英語)

油麻地(Wikipedia)

廟街夜市(香港政府観光局)

吳松街臨時熟食小販市場(香港政府観光局)

空心菜/通菜(ヨウサイ Wikipedia)

菜心(サイシン Wikipedia)

芥藍(カイラン Wikipedia)

Blue Girl(公式サイト)

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吃貨美味探訪記一覧(No.1〜200)

佐久間賢三

一昨年、昨年と旧正月をマレーシアのイポーで過ごす。今年も行きたかったが、今年の旧正月は2月17日。月の半ばは出張が入ることが多く、断念。気が早いが、来年の旧正月は2月6日(土)。来年は必ずまた訪れようと、心に誓っている。