今回の出張は初めての香川県。香川県といえば「うどん県」。全国各地に名物料理はあれど、県名を聞いて国民の大多数が同じ食べ物を思い浮かべる県が他にあるだろうか。そんな本場・香川で、文字どおり“うどん漬け”の2日間を過ごしてきた。

某チェーン店ではない、本物の丸亀うどん

 今回の出張先は、香川県北西部の瀬戸内海に面した多度津町(そう遠くないところに宇多津町があり、あやうく違う町に出張するところだった)。高松空港から空港バスで約1時間20分かけて丸亀駅に向かい、そこからローカル線で2駅先が多度津駅である。丸亀駅に到着すると、多度津に向かうまではまだ時間があった。

 丸亀といえば、某チェーン店がすぐに思い浮かぶが、よく知られているように、このチェーンは丸亀どころか、香川県にすら縁もゆかりもない。全国各都道府県に複数店舗ずつ展開しているが、香川県内ではどうかと検索してみたところ、まるで香川県民の視線をそっと避けるかのように、高松市の中心地からかなり奥まったところに1軒だけ店があった。

 それはさておき、香川に来たからにはうどんを食わなきゃ始まらない。というわけで、事前にネットで見つけておいた、丸亀駅近くの店に入った。

 本場の讃岐うどんの店はセルフ式が一般的と聞いていたが、この店は普通にテーブルでのオーダー式。単品のうどんに天ぷらなどのトッピングをすることもできたが、勝手がよく分からず、天ぷらのビジュアルに目を奪われて天ぷらうどんを頼んだ。それがこれ。

 うーん、さすが本場の讃岐うどんは……と、気の利いた食レポをしたいところだが、ただでさえ貧しい表現力では、讃岐うどんのコシの前では腰砕けである。味の違いが分からない人間が言えるのは、結局のところ「うまい」の一言に尽きる。

 このセットにはデザートとして、香川県(とお隣の徳島県)の特産品である和三盆をキャンディ状に固めたお菓子が付いていた。

 和三盆など、漫画『美味しんぼ』に出てきたのを見て知ったくらいで、それまで見たことも食べたこともなかった。高級な和菓子に使われるものと思い込んでいたが、このように干菓子にして砂糖だけの味を楽しむ食べ方もあることを初めて知った。

讃岐うどんの名店を巡るバスツアーに参加

 その翌日の午前中のこと。東京に帰る便は夕方だったので、高松駅から出発して讃岐うどんの名店2軒を巡るバスツアーに参加した。平日ということもあって、大型バスの乗客は10人程度。乗客の中には、高松空港とソウルを結ぶ直行便で来たと思われる韓国人の3人家族もいた。

残念ながら現在は運休中

 バスは市街地を抜けると、住宅と畑が連なる一般道をしばらく走り、そのうちに畑の割合が増えていき、だんだんと住宅がまばらになってくる。この先にうどんの名店が本当にあるのか? と不安になり始めたが、そういえば以前、讃岐うどんの名店を紹介するテレビ番組で、もっと辺鄙な場所にある店を紹介していたのを思い出し、心の平静を取り戻した。きっと美味い讃岐うどんは、都会ではなく田舎にあるのだ。

 すると、なんの変哲もない場所でバスは止まった。辺鄙な場所ではないが、周りは畑と普通の住宅である。こんなところに名店が? 讃岐うどん、やはり侮れない。

 ここは「釜玉うどん」、つまり釜揚げの生卵入りうどんが有名な店だそう。他の乗客と一緒にバスを降り、店というよりも瀟洒な庭園といったほうがいい敷地内へと足を踏み入れた。

本当は2玉にしたかったが、このあとも食べることを考え、ぐっと我慢して1玉に抑えた

 この店の「釜玉うどん」は、丼に入った熱々のうどんと生卵の上に専用のだし醤油をかけ入れていただく。熱々の卵かけご飯のように、シンプルだけど美味い。

店外の屋根付きの庭で食べるのが心地よい

香川の人たちのうどんへのこだわりを聞く

 再びバスに乗り込み、走ること30分弱。次の店は「あつあつ」「ひやひや」「あつひや」「ひやあつ」という、暗号のようなオーダーの仕方で知られる店だそう。熱いうどんか冷たいうどん、熱いだしか冷たいだし、その組み合わせを選ぶようになっていて、その組み合わせを「あつあつ(熱いうどん、熱いだし)」とか「ひやあつ(冷たいうどん、熱いだし)」と言ってオーダーする仕組みだ。

 にもかかわらず、頼んだのは「しょうゆうどん」。というのも、店内の説明書きによると、麺の甘みとコシが一番よく分かる、この店の人気メニューの一つだったから。汁なしのうどんに、生醤油をかけるだけ。このシンプルな食べ方をどうしてもやってみたかったのだ。

いか天やとり天にも心動かされたが、迷った末にナスの天ぷら

 あとで調べてみたら、この店の「あつあつ」「ひやひや」などの食べ方は、もともとは「こんぴらさん」で知られる金刀比羅宮のある琴平町の店が元祖で、2009年に閉店したあと、その製法や味を受け継いだ人が高松市で店を開いたのだとか。味は、人から人へ。

 うどんを醤油で食べる。醤油の風味がうどんの味を引き立て、箸が止まらなくなる。コシのあるうどんをよく噛んでいると、じわじわとうどんの甘みが増してくる。と同時に、ちょっとイケないことをしているような気分にもなった。

 そういえば子供の頃、ご飯に醤油をかけて食べようとすると、親から「体に毒だからダメ!」と叱られていたっけ。あの罪悪感に近いものがあるのかもしれない。でも、その“禁じ手”が美味いのだから始末が悪い。

 うどんを食べ終えて店を出ると、バスの運転手さんがバスの脇でタバコを吸って休憩していたので、他の乗客が戻ってくるまでの間、香川県民のうどんへのこだわりについて聞いてみた。

「香川の人は必ず行きつけのうどん屋が数軒あって、同じ店に毎日行くこともある」

「肉うどんならあそこの店、天ぷらならあそこの店と、食べたい具で行く店を変える」

「赤ん坊の離乳食に、うどんを柔らかく茹でて、細かくちぎって食べさせる」

……うどんが生活の一部どころか人生の一部になっている。さすが、うどん県。

 これでツアーはおしまい。バスで高松駅へと戻っていった。

1年分のうどんを食べたはずだったのに

 午後は高松城を見学したり、隣の香川県立ミュージアムで展覧会を見たりして時間をつぶし、夕方になってバスで高松空港に向かう前に、高松駅近くのうどん屋でまたうどんを食べた。

海に面した高松城のお濠には海水が入れられ、鯛やフグなどの海の魚が泳いでいる。面白い
餌を買ってお濠に投げ入れると、たくさんの魚が集まってくる

 これまでの3軒が名店ばかりだったからか、この店のうどんはそれほど美味く感じられず。以前はうどんの味になどほとんど気にしていなかったのに、わずか2日間でうどんに対する舌が鋭くなったのか……。いや、さすがにそれは言い過ぎか。

 この2日間で4食。めったに外でうどんを食べないので、1年分のうどんを食べた、しばらくうどんはいいか……と思っていたら、なんとその1か月後に再び高松に行くことに。うどん県を訪れた者は、必ず再びうどん県を訪れる。

 この時は最初に広島県府中市で用事があり、そこからローカル線と新幹線を乗り継いで岡山駅へ。快速マリンライナーに乗り換えて瀬戸大橋を渡り、高松駅に着いた時には午後6時を過ぎていた。

瀬戸大橋を渡る電車の窓から眺める瀬戸内海の眺め

 翌日の午前中に用事を済ませると、お昼は用事先の方お薦めのうどん屋へ。やはりこの人にも、いきつけの店があった。

下の緑色が柚子胡椒

 この店は、醤油だけでなく柚子胡椒までついている。醤油でうどん、かき揚げをかじる、柚子胡椒を少しつけてまたうどん──気づけばその繰り返し。うどんを醤油で食べる快感を知ってしまった以上、もう後戻りはできそうにない。

 次回は、高松出張の夜に食べた、香川県のもう一つの名物についてご紹介する。うどん以外も抜かりなし。

関連リンク

うどん県旅ネット(香川県観光協会公式サイト)

高松空港(公式サイト)

讃岐うどん(Wikipedia)

和三盆(Wikipedia)

美味しんぼ(ビッグコミックBRO.NET)

釜玉うどん(Wikipedia)

日本たまごかけごはん研究所(公式サイト)

金刀比羅宮(公式サイト)

高松城(公式サイト)

香川県立ミュージアム(公式サイト)

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佐久間賢三

一昨年、昨年と旧正月をマレーシアのイポーで過ごす。今年も行きたかったが、今年の旧正月は2月17日。月の半ばは出張が入ることが多く、断念。気が早いが、来年の旧正月は2月6日(土)。来年は必ずまた訪れようと、心に誓っている。