香港人の知り合いとの飲茶を終え、彼らの案内で「前深水埗配水庫」を見学。山を降りると、北東に約500メートル歩いて「美荷樓生活館」(メイ ホー ラウ サーン ウット グン Heritage of Mei Ho House)へ向かった。

日本ではなぜか甘味として発展しなかった豆腐

 美荷樓生活館は、1950〜60年代の香港における公営住宅の歴史と、そこで暮らした人々の生活を展示する歴史資料館だ。かつて実際に公営住宅として使われていた建物「美荷樓」を改修したユースホステルに併設されている。

1953年の大火で家を失った住民のために、香港初のH字型再住屋として翌年に建てられた美荷樓

 入場は無料。自由見学もできるのだが、ボランティアのガイドさんがいたので案内してもらうことにした。広東語専門で英語は得意ではないとのことだったが、さすが香港人、それで充分に通じた。

美荷樓生活館に再現された、当時の団地の室内。トイレ、水場は共同だった

 見学を終えると、再び5分ほど歩いて深水埗(サム スォイ ボウ)の商店街へ。香港・九龍地区の下町といった趣で、通りには屋台がズラッと並んでいる。うーん、いい雰囲気。高層ビル街よりも、こういうところのほうが香港人たちの息吹が感じられて楽しい。

 ここまでずっと歩きっぱなしだった。そろそろ足も限界に近い。そこで香港人の知り合いが連れていってくれたのが「公和荳品廠」(ゴン ウォ ダウ バン ツォーン)。「ミシュランガイド香港」にも掲載された豆腐花(ダウ フー ファー)の老舗で、創業はなんと1893年だという。

豆腐花の後ろにあるのは豆腐、豆朴(揚げ豆腐)、魚腐(魚のすり身と豆腐)の揚げ物3種類盛り合わせ

 最近は東京でも、豆腐花(または豆花)を台湾スイーツとして出す店が増えてきているが(参照:中国美味紀行その107(日本編29)「東京でも食べられる店が増えてきた中華スイーツの華──豆花」)、要は豆腐に甘いシロップやトッピングをかけたものだ。日本の絹ごし豆腐をさらに柔らかく滑らかにした舌触りで、舌にも腹にも心にも優しい。

 この豆腐花、香港だけでなく中国本土、台湾、マレーシア、そしてベトナムでも食べたことがある。どこで食べてもほっとする味だ。

 それにしても、なぜ日本で豆腐は甘味の素材にならなかったのだろう。江戸時代にはすでに『豆腐百珍』という豆腐料理の粋を集めた本が出版されているのに。ちなみにその『豆腐百珍』には、今でいうスイーツのような料理も紹介されているそうだが……。不思議な話だ。

 ふぅ〜。甘さ控えめの豆腐花が、歩き疲れた体にじんわりと染み渡っていく。これだ。これが欲しかった。胃が落ちついたところで、併せてオーダーした豆腐の揚げもので小腹を満たしていく。こちらも揚げ物とはいえ豆腐らしく、夕飯用の胃袋を邪魔しない軽さだ。

 一息ついて店を出ると、5分ほど歩いたところに今度は「合益泰小食」(ホップ イック ターイ シゥ セック)という店があった。小食とは軽食、あるいはB級グルメのような食べ物を指す。こちらも香港のミシュランガイドに掲載されている人気店で、さすがに軽い行列ができている。

取り出した腸粉を短く切って皿に乗せ、タレをかける
列はそれほど長くないが、次から次へと人が後に並んでくる

 この店の名物は腸粉(チョン ファン)。これまでに何度か取り上げてきたが(参照:中国美味紀行その83(日本編17)「香港茶餐廳メシ編その3 名前はビックリだが、朝食や飲茶の定番──腸粉」)、米粉と水を合わせて乳液状にしたものを蒸してつくる。湯葉のような食べ物で、広東料理ではお馴染みの食材だ。これにタレをかけていただく。

値段は腸粉4本で10香港ドル(約200円)

 この店の腸米は韓国のトッポギのようにも見えるが、まったく別物である。薄く伸ばした生地を丸めてカットしたもので、餅ではないからツルっとした食感で実に食べやすい。甘口醤油、胡麻ダレ、醤油の3種類のタレが、それぞれに主張しながらも絶妙なハーモニーを奏でている。

 店内はなく、みんな持ち帰るか、その辺に立って食べている。このワイルドさが、いかにも下町っぽくていい。

 時刻は午後5時すぎ。香港人の知り合いたちとはここで別れ、MTRで油麻地(ヤウ マー デイ)のホテルへ。よく歩き、よく食べた一日だった。

 ……だが、まだ終わりではない。シャワーを浴びて一息ついたら、今度は同級生親子と再び合流して廟街(ミウ ガーイ Temple St.)の夜市に繰り出す予定だ。この街では、夜になっても食べ歩きは終わらない。

関連リンク

前深水埗配水庫(香港政府観光局)

「香港の「美荷樓生活館」が再オープン 1950~60年代の香港にフォーカス」(香港経済新聞)

深水埗(Wikipedia)

公和荳品廠(香港政府観光局)

ミシュランガイド香港(公式サイト)

豆花(Wikipedia)

中国美味紀行その107(日本編29)「東京でも食べられる店が増えてきた中華スイーツの華──豆花」(セキュリティインサイト)

『現代語訳 豆腐百珍』(中央公論新社)

合益泰小食(香港政府観光局)

「知られざる腸粉(チョウフン)の世界」(80C〔ハオチー〕)

中国美味紀行その83(日本編17)「香港茶餐廳メシ編その3 名前はビックリだが、朝食や飲茶の定番──腸粉」(セキュリティインサイト)

トッポッキ(Wikipedia)

廟街夜市(香港政府観光局)

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吃貨美味探訪記一覧(No.1〜200)

佐久間賢三

一昨年、昨年と旧正月をマレーシアのイポーで過ごす。今年も行きたかったが、今年の旧正月は2月17日。月の半ばは出張が入ることが多く、断念。気が早いが、来年の旧正月は2月6日(土)。来年は必ずまた訪れようと、心に誓っている。